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【曲目解説】こどもクラ コドモ扱いが嫌いなこどものためのクラシックコンサート

2023年 7月 15日

こどもクラ コドモ扱いが嫌いなこどものためのクラシックコンサート

2023年7月15日(土)14:00開演 東京芸術劇場コンサートホール

ポルカ「雷鳴と電光」作品324/ヨハン・シュトラウスⅡ世

Unter Donner und Blitz Op.324 / Johann Strauss Ⅱ

「雷鳴と稲妻」はオーストリアの作曲家でワルツ王と称されたヨハン・シュトラウス2世(1825-1899)が作曲したポルカです。「ポルカ」とは、1830年頃にチェコのボヘミア地方でうまれた速い2拍子が特徴の民族舞曲。当時その地域を支配していたオーストリア帝国の首都ウィーンでも大流行し、舞踏会でも大人気。現在の、「四つ打ち」と呼ばれるダンスミュージックと似ているリズムセンスですよね。ちなみに作曲家は、生涯に160曲以上のポルカを書いています。

 そもそも、この曲は、芸術家協会「ヘルペルス」のために作曲された作品。「ヘルペルス」とは「宵の明星」のことなので、最初は「流星」と言うタイトルで着想されたそう。それが、雷鳴のような大太鼓のトレモロと、稲妻のようなシンバルの響きが圧倒的な「雷鳴と稲妻」になってしまった。「こっちのタイトルの方が、ビッタリくる」とね。まあ、表現者にはよくある話です。台風と共にある日本の雷ではなく、晴れていたと思ったら急に天気が変わって雷が落ちるというヨーロッパの天気。その環境の違いが作風にも現れています。

「ペール・ギュント」組曲第1番作品46より第4曲「山の魔王の宮殿にて」/エドヴァルト・グリーグ

 Peer Gynt Suite No.1 Op.46: Ⅳ. In the Hall of the Mountain King / Edvard Grieg

 ノルウェーの作曲家エドヴァルド・グリーグ(1843-1907)は、作品にその国らしさを色濃く反映させるいわゆる「国民楽派」のひとり。北欧の歴史や伝説、自然等から着想を得て魅力的な楽曲を世に出しました。「ペール・ギュント」は、同じくノルウェーの劇作家イプセンの同名の戯曲に合わせて作曲された作品で、のちに作曲家本人の手でその中でも人気の曲を集めて組曲化されました。

 主人公は夢想家でほら吹きの青年ペール・ギュント。王様か皇帝になるなどと言い出し、恋人を故郷に待たせて旅に出て、怪しい商売で金持ちになったり、騙されて無一文になったりを繰り返すこまったちゃんです(今で言うならば、親を泣かす迷惑ユーチューバー系という感じでしょうか)。

 権力ほしさに魔王の娘に結婚を迫る主人公が、魔王から出された恐ろしい条件にビビって逃げだし、命からがら脱出する、というシーンに使われるのがこの「山の魔王の宮殿にて」。どこかユーモラスなのは、「ダメでバカなところがあるのが人間だよね」という作曲家の寛容でヒューマンな眼差しかも知れません。

「マ・メール・ロワ」より第3曲「パゴタの女王レドロネット」/モーリス・ラヴェル

Ma Mére l’oye: Ⅲ. Laideronnette, Impératrice des pagodes / Maurice Ravel

ストラヴィンスキーからは、「スイスの時計職人」と称された、管弦楽の魔術師、モーリス・ラヴェル(1875-1937)。オーケストラの響き、というクラシック音楽のひとつの頂点はまさにラヴェルの作品群にあります。ちなみに、誰でも一度は聴いたことがある「ボレロ」はこの人の作品です。

「マ・メール・ロワ」は、17〜18世紀の童話を下敷きに、ゴデブスキー家の2人の子供、ジャンとミミーに捧げられたピアノ連弾組曲で、彼自身の手で管弦楽化。「パゴダの女王レドロネット」はドーノワ夫人作の『緑のヘビ』から着想された作品で、呪いをかけられて醜い姿にさせられてしまった王国の娘(レドロネット)と、童謡に緑の蛇に変化させられた王子のお話です。

 王女がお風呂に入っているとき、中国陶器の人形たちが歌ったり、楽器を奏でて、王女様を楽しませる様子を、東洋的な5音音階やチェレスタやグロッケンシュピール、タムタムなど、エキゾチックな楽器を駆使して描いています。ちなみに、パゴダとは仏塔という意味。中国の陶器で出来た首振り人形から、作曲家はイメージを膨らませました。

組曲「レンミンカイネン」作品22より第2曲「トゥオネラの白鳥」/ジャン・シベリウス

Lemminkäinen Suite Op.22: Ⅱ. The Swan of Tuonela/ Jean Sibelius

 フィンランドを代表する作曲家として知られるジャン・シベリウス(1865-1957)。その音楽はフィンランドの歴史,風土に根ざし,同時代のヨーロッパの作品傾向とは一線を画す独自のスタイルを確立。生の民謡素材は用いず,より純化された音楽表現を探求し続けました。

 この曲は、当初は民族叙事詩「カレワラ」を題材としたオペラの序曲として作曲されたのですが、オベラ化には至らず、「レイミンカイネン組曲」に組み込まれることになりました。

 初版の楽譜には「フィンランドの神話では地獄、死の島であるトゥオネラは、黒い水の流れる急流の大河に囲まれている。そこではトゥオネラの白鳥が歌いながら堂々と浮遊している」と書き込まれています。

 白鳥を題材にしたクラシック曲は多く、サン=サーンス「白鳥」や、チャイコフスキー「白鳥の湖」など、いずれもバレエ化され、親しまれています。

 生者と死者を分ける川の存在は、日本では三途の川が有名ですが、ヤマトタケルノミコトの魂が白鳥と似って故郷に帰ったという「白鳥伝説」もあり、遠いフィンランドとの不思議な共通点にも心を動かされます。

「狂気のエクササイズⅠ」フランチェスコ・フィリデイ

Esercizio di pazzia I / Francesco Filidei

クラシック音楽の歴史の中には、調和やリズム、メロディーなどから逸脱して、より抽象的で実験的なスタイルを探求するべく、20世紀後半に出現した現代音楽というジャンルがあります。表現する「楽器」も様々で、街角の雑踏、卓球の試合の時の球音、その間、全く奏者が音を出さない「無音」などなど。それらが全て、譜面に書かれているところがボイント。

 今回の「楽器」は風船。作曲家のフランチェスコ・フィリディ(1973-)は、作曲家、オルガニストとして活躍。ローマメディチ荘現代音楽祭「コントロテンポ」芸術監督にも就任しています。以下は作曲家からのコメントです。

「風船は素晴らしい音源で、電子合成に匹敵するような効果を生み出します。吹いたり、弾いたり、なでたり、思いのままに演奏できる。また、形や色で視覚的にも大きな可能性を持っています。通常パーティーや遊びで使われるものを使って作った難しい楽譜をカルテットで演奏するというのは、何かおかしな感じがします。そこで、この曲を『狂気のエクササイズ』と名付け、ある種のグロテスクな儀式の中で風船をあらゆる方法で使ってみることにしました。」

バレエ音楽「エスタンシア」組曲 作品8より第4曲「マランボ」/アルベルト・ヒナステラ

Estancia Suite Op.8: IV. Malambo / Alberto Ginastera

 ブラジルのヴィラ=ロボス、メキシコのチャベスとともにラテン・アメリカを代表する作曲家の一人が、アルゼンチン出身のアルベルト・ヒナステラ(1916-1983)。アルゼンチンの民謡を取り入れた第一期、バルトークらの影響を受け、民族主義的音楽を追求した第二期、前衛的な新表現主義の第三期というように、作風は変わって行きますが、その作品は、多彩でグルーヴィー。強烈なリズムが特徴的で、ラテン音楽愛好家にとっては、無視できない存在でもあり、クラシック音楽界においては唯一無比の存在感を放っています。

「エスタンシア」は、アルベルト・ヒナステラが作曲したバレエ音楽で、ガウチョの生活や、パンパに住む人々を描いた民族色豊かな作品ですが、曲を委嘱したバレエ団が解散してしまったため、のちに組曲として再編されることになりました。

「マランボ」は終幕の踊りで、全曲のフィナーレ。ベネズエラ出身の指揮者、グスターボ・ドゥダメルが好んで取り上げ、このYouTube時代に大ブレイク。多くの人を魅了しています。

『室内管弦楽のためのエチュード』~第3曲「Spring」/川島素晴

Etudes for chamber orchestra III. Spring / Motoharu Kawashima

ダルムシュタット・クラーニヒシュタイン音楽賞等国内外の音楽賞を受賞し、現代音楽の解説者としてメディアに登場することも多い川島素晴のこの作品は、委嘱元のホールのひとつ、大阪・いずみホールに捧げた楽章。

 いずみは英語でSpringですが、英語では「バネ」の意味もあります。作曲家はその言葉の意味の転化をモチーフに、曲を通じて、「ビョ~ン」という、バネが跳ねるような音型(グリッサンドや素早い音階)を多用し、オーケストラにはこんな音響ワールドがあるのか?! というイメージ豊かで刺激的な世界を創り上げています。そう、Springには「春」という意味もありますが、それには大学で教鞭をとる作者の「キャンパスの春」というイメージも重なっているそうです。

 「大阪のホール、ということもあり、全体は大阪の街の様子や、ちょっとしたギャグ風味を意識している」とは作曲家の弁。下手な作曲家や演奏家を揶揄するために書かれモーツァルトの「冗談の音楽」はもとより、現代音楽の中には「ティンパニ奏者がラストに頭を楽器に突っ込む」というような楽曲も在り、「お笑い」ファンは要チェックですよ!!

弦楽セレナード ホ短調 作品20より第2楽章/エドワード・エルガー

Serenade for Strings in E Minor Op.20: Ⅱ.Larghetto / Edward Elgar

エドワード・エルガー(1857-1934)は、イギリス第二の国歌とも称される「威風堂々」や「愛の挨拶」などのマスターピースを作曲し、様々な表彰式などでその作品を耳にしたことも多いでしょう。20世紀初頭におけるイギリス音楽の復興を成しとげ、パーセルの没後200年にわたるイギリス作曲界の空白を埋めた功績者でもあります。キャッチーなメロディー、技巧に長けたオーケストレーションにて、感情の高貴さを歌い上げる作風は、まさに音楽の力そのもの。

 セレナードとは、夜、恋人のいる窓辺などで奏でられた愛の歌のこと。この曲では、ヴァイオリンやヴィオラといった弦楽器群が、のっけから「胸キュン」と言われる、人の心を揺るがす愛の感情を優しく、そして情熱的に表しています。実際、この曲は愛妻家であったエルガーが、8歳年上かつ自分より階級が高い妻、キャロライン・アリスの3回目結婚記念日に送った曲。彼は婚約記念の贈り物として、「愛の挨拶」という名曲を贈ってもいて、その「奥さん! マイラヴ」の表現力には、脱帽するばかりです。

死の舞踏 作品40/サン=サーンス

Dance Macabre Op.40 /Camille Saint-Saëns

「動物の謝肉祭」などで、有名な、フランスを代表する作曲家のひとりで、オルガン奏者としても評価が高かった、シャルル・カミーユ・サン=サーンス(1835-1921)。作品番号があるものだけで169曲、全体では300曲以上という多作家の一方で、戯曲に手を染めるわ、ギリシャの壺絵を研究する考古学者、宇宙生成の理論に取り組んだ天文学者という、マルチな才人。

 もともとは歌曲として創られた「死の舞踏」。その歌詞はアンリ・カザリス作の「ハロウィーンの夜、死神によって蘇った死者たちの明け方まで続くダンス」というフランスの迷信に基づいています。

 冒頭のハープは、死神が墓場に登場する様子を描き、E♭にチューニングされた不協和音のヴァイオリン、フルートソロが死者のダンスを表し、シロフォンがガタガタと骨の鳴る音を表現しています。

 そのトリッキー、ユーモアと恐怖が入り交じったセンスは、現在の『イカゲーム』などを彷彿とさせるようなシアトリカルなもの。それもそのはず、彼は著名な作曲家としては初めて、映画にオリジナルな音楽を付けた人でもありました。

「ワルツィング・キャット」/ルロイ・アンダーソン

The Waltzing Cat / Leroy Anderson

オーケストラには、「ライト・ミュージック」と言われる、通俗的な小品を扱うジャンルがあります。通俗的、といってバカにしてはいけません。人生に現れる良きこと、美しいこと、心温まることなどなど、人をして本気にハッピーにさせる力があるのがこの音楽群で、ルロイ・アンダーソン(1908-1975)は、そのワンアンドオンリーの存在。最初のヒットナンバー『シンコペイテッド・クロック』は、なんとビルボードチャートの11位を記録しました。

 ポップス畑の人と思いきや、彼は楽理や対位法、作曲法などの音楽教育を受け、ノルウェー語、アイスランド語等の研究を続けた言語学者でもありました。彼は戦後の「冗談音楽」のバイオニアでもあり、タイプライターや紙やすりのような日用品を「独奏楽器」として用いました。が、その作風は「冗談」などではなく、品格のある作品に仕上がっているところが素晴らしいのです。

この曲では、ヴァイオリンの弦を滑らせるように演奏するポルタメント (portamento)奏法が猫の「ニャー」という愛らしい鳴き声を表現しています。

子どものための交響組曲より第2楽章「海の子ども」/湯山昭

Symphonic Suite for Children: Ⅱ.Children of the Sea/ Akira Yuyama

「おはなしゆびさん」「あめふりくまのこ」などの童謡、ピアノ学習者が必ず通る道であるピアノ曲集「お菓子の世界」、そして、「四国の子ども歌」などの合唱曲などが有名つとに有名。人々に演奏された、歌われたという面においては「戦後のクラシック音楽作曲家の中で、一番大衆に愛された存在」といっても過言ではない湯山昭(1932-)の唯一の交響曲。東京放送の委嘱により1961年に作曲。同年、芸術祭参加作品として放送初演されています。

 ピアノ、サクソフォン、多数の打楽器を含む一管編成の色彩豊かで特徴的なオーケストレーションは、彼が愛したラヴェルを彷彿とさせます。プロコフィエフの「ビーターと狼」、ブリテンの「青少年のための管弦楽入門」を意識しつつも、湯山昭の即品の特徴である「子供向けだからといって、絶対に安易に平易にしない」創作姿勢が全編に貫かれています。無調の現代音楽がクラシック界の作曲潮流だったときに、堂々とメロディー×リズム×和声の美意識を貫いた作曲家でもありました。

 彼の故郷である平塚、湘南の海の大らかさと厳しさ、四方を海に囲まれた島国である日本の郷愁をも感じさせる作品です。