2022年10月4日。歴史的な瞬間がサントリーホールで行われた。
クラシック界でトップクラスの人気と実力を誇り、今年6月に登録者数100万人を達成したピアニストYouTuberとしても活動する、今大注目の若手ピアニスト《角野隼斗》が今回、日本初演に挑戦した。
その曲は、ロンドン出身の現代で最も称賛されている作曲家 トーマス・アデスが作曲した『ピアノと管弦楽のための協奏曲』。見たこともないような変拍子がたくさん出てきたり、オーケストラとピアノの拍子が違ったりと、超難曲。そんな超難曲を「角野さんしかこれはできない、角野さんとぜひ演奏したい!」と今回指揮を務めたパシフィックフィルハーモア東京の音楽監督 飯森範親からの猛烈なラブコールでこの公演が実現した。
公演当日、サントリーホールは全ての席を埋め尽くすほどの大勢のお客様で日本初演を迎えることができた。
演奏が始まる前、舞台上で飯森と角野氏が顔を合わせ頷き合う姿、奏者たちの眼差しを見て、全員がこの曲にかける熱い“想い”と“絆”を感じた。
多忙なスケジュールの中、飯森と角野氏2人だけで合わせをし、これはもはや数学なのでは?というくらい難解な楽譜をお互い意見交換を重ねる。そしてオーケストラと緻密にリハーサルを重ね、この公演を迎えた。
演奏が始まると、角野氏のからだ全体で演奏している姿を見て、音を聴いて、まるで舞台からポンポンと湧き出る音のボールがいろんなところで跳ねたり転がったりしながら旅へ出発したかのような第1楽章が演奏された。
第2楽章。角野氏が出すピアノの音ひとつひとつに音の重みを感じ、どこか寂しさもあるような、何かを訴えかけるような演奏に心動かされた。静けさの中で終わった第2楽章から一変して、また音のボールが旅の続きを始める。曲の終末に向かうにつれて、角野氏とオーケストラの演奏でサントリーホールがさらにヒートアップ。お客様も1楽章より前のめりになり、からだを揺らしたくなるような雰囲気を感じた。
演奏が終わると、客席からスタンディングオベーションが起きた。角野氏と飯森、そして奏者たちがこの曲にかけた色々な“想い”が聴衆の方にも伝わった結果だと思う。『音楽が人を繋ぐ』という意味をあらためて実感できた公演だった。
後半のホルスト『惑星』。なぜ惑星を選曲したのか?
それは、5月に開催した《飯森範親音楽監督就任記念》の物語の続きであるからだ。
5月公演では楽団名を新たに改称したオーケストラ全員で母船に乗り、新たな音楽の世界へと宇宙へ進む様子を描いた。そして今回、その母船で宇宙へ辿り着き、さまざまな惑星に出会う様子をお届けした。惑星を少しでも身近に感じていただけるよう、照明演出や惑星を投影しながら演奏を行った。
今回、角野氏の演奏を目的に来場していただいたお客様が大半であったと思う。しかし我々オーケストラだけの演奏も最後まで聴いていただき、こちらも演奏後にスタンディングオベーションが起こった。とても嬉しかった。
『角野隼斗』というピアニストがクラシック界に大きな影響を与えていることを実感した公演でもあった。